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最終更新日:
2025-12-25

不妊治療では双子が生まれる確率が高くなることが知られています。双子は一度に二人の命を授かる喜びもある反面、妊娠・出産にともなうリスクがあることも指摘されています。

この記事では、不妊治療における双子の確率や原因、リスク、利用できる支援制度について詳しく解説します。

不妊治療(生殖補助医療:ART)で双子が生まれる確率

日本産科婦人科学会が公開しているARTデータブック(2019〜2023年)によると、生殖補助医療(ART)の多胎率(双子以上の妊娠が成立した割合)は、以下のとおりです1)

年度 多胎率(双子以上の妊娠の割合)
2019年 2.96%
2020年 2.98%
2021年 3.06%
2022年 3.04%
2023年 3.77%

過去5年間のデータを見ると、2019年から2022年までは3%前後で推移しており、2023年はやや上昇して3.77%となっています。

全分娩件数から見る双子の確率

政府統計の総合窓口(e-Stat)の、単産-複産(複産の種類)別にみた都道府県別分娩件数(2019〜2023年)によると、全分娩件数に占める双子の割合、双子以上の多胎の割合は、以下のとおり算出されます2)

年度 双子が生まれた割合 双子以上(多胎)が
生まれた割合
2019年 1.02% 1.04%
2020年 1.04% 1.05%
2021年 1.08% 1.10%
2022年 1.10% 1.12%
2023年 1.17% 1.19%

2023年の数値では、双子が生まれた確率は1.17%、三つ子以上も含めた多胎の出産の割合は1.19%という状況です。過去5年間の推移をみてみると、2019年の1.02%、1.04%という数値からは少しずつ増えています。

不妊治療(生殖補助医療)では双子が生まれる確率が上がる

不妊治療を実施した場合、自然妊娠に比べて双子を授かる確率が高くなることが知られています。

日本産科婦人科学会の資料では、生殖補助医療における2023年の多胎率(双子以上の割合)は3.77%と報告されています1)。一方、政府統計の総合窓口(e-Stat)では、全分娩件数に占める双子以上の出産の割合は1.19%とされています2)

生殖補助医療のデータは妊娠時のものであり、出産時のデータとは単純な比較はできませんが、生殖補助医療における多胎率が高い傾向にあることが読み取れます。

不妊治療で双子が生まれる可能性が上がる原因

ここでは、不妊治療で双子が生まれる可能性が上がる原因について解説します。

排卵誘発

排卵誘発は、内服薬や注射薬で卵巣を刺激し、排卵を促す治療法です。自然周期では排卵しにくい方を対象に、不妊治療のタイミング法や人工授精の際に用いられます。

通常、自然周期では、いくつか育った卵子のうち1個だけが排卵されるよう、体内のホルモンによって調整されています。しかし、排卵誘発剤を使用するとその調整が効きづらくなり、いくつもの卵胞が成熟卵胞へと育って複数の卵子が排卵される可能性が高くなるため、双子を妊娠する可能性が高まります。

ただし、体外受精では、この理由はあてはまりません。生殖補助医療では、採卵で得られた卵子を受精させた後、できた受精卵(胚)のうちの1個のみを子宮に戻すからです。

生殖補助医療(体外受精)

生殖補助医療で1つの受精卵だけを子宮に戻す単一胚移植を行っている場合でも、双子(一卵性双胎)が生まれる可能性があります。

一卵性双胎は、1つの受精卵が自然に分割して2人の赤ちゃんになる現象です。生殖補助医療における一卵性双胎の発生率は約1〜2%とされており、自然妊娠の約0.3〜0.4%と比べるとやや高い傾向にあります。

その理由は完全には明らかになっていませんが、以下のような生殖補助医療特有の処置が影響している可能性が指摘されています。

  • 顕微授精(顕微鏡で確認しながら1個の精子を卵子に直接注入する方法)
  • 受精卵の培養過程での透明帯(受精卵を包む膜)の変化
  • 受精卵の凍結融解処理
  • アシステッドハッチング(透明帯を人為的に薄くして妊娠率を高める処置)

また、現在は1つの受精卵だけを子宮に戻すことが原則となっていますが、女性の年齢が35歳以上の場合や2回以上続けて妊娠不成立があった場合などは、例外的に2つの受精卵を戻すことが許容されます。

この場合、2つの受精卵がそれぞれ着床して二卵性双胎となる可能性に加え、それぞれの受精卵が分割して一卵性双胎となる可能性もあるため、双子や三つ子が生まれる確率が高くなります。

不妊治療での双子の確率を下げるための対策

ここでは、不妊治療で双子が生まれる確率を下げるために実施されている対策について解説します。

排卵誘発の場合

排卵誘発では、できるだけ一つの卵胞だけが育つように、排卵障害の原因を見極めたうえで、最適な誘発方法を選択します。

また、治療中に成熟した卵胞(直径16mm以上)が4個以上育った場合は、双子だけでなく三つ子以上の高次多胎妊娠のリスクが高まるため、その周期の治療はキャンセルになります。施設によっては、安全のマージンを設けて3個以上でも中止するところも少なくありません。

生殖補助医療の場合

生殖補助医療が始まった初期には、妊娠率を高めるために複数の胚(2個以上)を移植することが一般的でした。その結果、2000年代前半の多胎率は15%以上に達しており、体外受精で妊娠する約6〜7人に1人が多胎妊娠という状況でした。今でもその時の印象から、不妊治療は多胎がとても多いという印象を持つ方も少なくありません。

しかし、多胎妊娠は母子ともにハイリスクであることから、2008年に日本産科婦人科学会が、胚移植では原則として受精卵を1個のみ移植する方針(単一胚移植)を打ち出しました。この方針転換により、多胎率は年々低下し、2023年には3.77%(妊娠時点)まで減少しています。

ただし現在でも、35歳以上の女性や2回以上連続して妊娠に結びつかなかった女性については、妊娠率を高めるために、2個までの移植が認められています3)

双子の分類とそれぞれが生まれる確率

双子には、「一卵性双胎」と「二卵性双胎」の2種類があります。

一卵性双胎は、1つの受精卵が自然に分かれて2人の赤ちゃんになるもので、遺伝子がほぼ同じになります。二卵性双胎は、2つの受精卵がそれぞれ別々に育つもので、遺伝子は通常の兄弟姉妹と同じ程度の類似性です。

医学的には、これに加えて「胎盤と羊膜の数」による分類も重要になります。双子の赤ちゃんを包む膜の構造によって、妊娠中のリスクが異なるためです。

胎盤は母体から栄養や酸素を受け取る器官で、絨毛膜という膜から発達します。赤ちゃんは絨毛膜の内側にある羊膜という薄い膜に包まれており、羊膜の中は羊水で満たされています。これを分かりやすく例えると、絨毛膜は「家」、羊膜は「部屋」のようなものです。

双子の場合、以下の3つのパターンがあります:

  • 2絨毛膜2羊膜(DD双胎):2軒の家に、それぞれ1部屋。赤ちゃんが完全に別々の空間にいる状態で、双胎の中では最もリスクが低くなります。
  • 1絨毛膜2羊膜(MD双胎):1軒の家に2部屋。同じ家(胎盤)を共有していますが、それぞれ別の部屋(羊膜)にいる状態です。
  • 1絨毛膜1羊膜(MM双胎):1軒の家に1部屋。同じ家も部屋も共有している状態で、最もリスクが高くなります。

二卵性双胎は必ずDD双胎(2軒の家)になりますが、一卵性双胎は受精卵が分かれる時期によってDD、MD、MMのいずれかになります。

2絨毛膜2羊膜双胎(DD双胎)

2絨毛膜2羊膜双胎は、2人の赤ちゃんがそれぞれ独立した胎盤と羊膜に包まれて成長するタイプです。「2軒の家に、それぞれ1部屋」の状態で、赤ちゃんが完全に別々の空間で育つため、3つのタイプの中で最もリスクが低くなります。

DD双胎の約8割は、二卵性双胎で、血液型や性別が異なる場合もあります。残りの約2割は一卵性双胎です。

一卵性双胎全体の中では、DD双胎は約25%を占めます。胎盤と羊膜が完全に独立しているため、胎盤を共有することで起こる合併症のリスクはありません。

1絨毛膜2羊膜双胎(MD双胎)

1絨毛膜2羊膜双胎は、基本的に一卵性双胎です。「1軒の家に2部屋」の状態で、2人の赤ちゃんが1つの胎盤を共有していますが、羊膜という膜で仕切られた別々の部屋で成長します。

一卵性双胎全体の中では、MD双胎が約75%と最も多いタイプです。

胎盤を共有しているため、双胎間輸血症候群(TTTS:Twin-Twin Transfusion Syndrome)という合併症が起こる可能性があります。これは、胎盤内の血管を通じて一方の赤ちゃんからもう一方の赤ちゃんへ血液が過剰に流れてしまう状態で、両方の赤ちゃんの成長に影響を及ぼすことがあります。

そのため、MD双胎では通常の妊婦健診よりも頻繁に超音波検査を行い、赤ちゃんの成長や羊水量を注意深く観察します。

1絨毛膜1羊膜双胎(MM双胎)

1絨毛膜1羊膜双胎は、一卵性双胎の中で最も稀なタイプで、全体の約1%程度です。「1軒の家に1部屋」の状態で、2人の赤ちゃんが胎盤と羊膜を共有し、同じ空間で成長します。

MD双胎と同様に胎盤を共有しているため双胎間輸血症候群のリスクもあることに加えて、羊膜に仕切りがないため、2人の赤ちゃんのへその緒が絡まり合う臍帯相互巻絡が起こる可能性があります。臍帯は赤ちゃんへの血流のすべてを担っているため、それが絡まってしまうことは血流が悪くなってしまうリスクとなります。

そのため、3つのタイプの中で最もリスクが高く、より慎重な管理が必要です。超音波検査の頻度を増やし、赤ちゃんの心拍や成長、へその緒の状態を注意深く観察しながら妊娠を見守ります。場合によっては、入院管理や早めの分娩計画が検討されることもあります。

双子の診断ができる時期

双子の診断は早ければ5〜7週でわかります。

二卵性双子の場合は、一般的に赤ちゃんの袋(胎嚢)も2つ見えるようになります。早ければ5週ごろから2つの胎嚢を確認することができます。

一卵性双子の場合でもDD双胎であれば胎嚢が2つになることがありますが、割合としては胎嚢が1つの場合が多くなります。その場合は胎嚢の中の赤ちゃん(胎芽)を確認する必要がありますが、早ければ7週ごろから胎芽を確認できるようになります。

双子での合併症のリスク

双子を妊娠すると、1人の赤ちゃんを授かる場合に比べて、早産や妊娠高血圧症候群などの合併症が発生しやすくなります。

ここでは、双子の妊娠で高まる主な健康リスクについて解説します。

早産

早産とは、妊娠22週0日から36週6日までのあいだに出産に至った状態をいいます。多胎妊娠ではとくに発生頻度が高く、赤ちゃんの予後に影響を与えることがあります。

赤ちゃんの肺や脳の機能が十分に成熟するのは妊娠34週頃とされており、34週未満で生まれた場合は、新生児集中治療室でサポートを受けるのが一般的です。

低出生体重児

低出生体重児とは、出生時の体重が2500g未満の赤ちゃんをいいます。

双子だと低出生体重児の割合も高くなることが知られており、2017年のデータでは双子以上の多胎児は71.65%であり、単胎児の8.17%よりも大幅に多いことがわかります4)

低出生体重児の場合も状態に応じて新生児集中治療室でのサポートが必要な場合もありますが、通常の新生児室で経過をみることもあります。

妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧症候群は、妊娠中に高血圧が認められる病気です。上の血圧(収縮期血圧)が140mmHg以上、または下の血圧(拡張期血圧)が90mmHg以上になった場合に診断されます。

双子などの多胎妊娠は妊娠高血圧症候群のリスクを高めます。

現在は医療管理の進歩により、死亡にまで至るケースは減少していますが、脳出血などの重篤な症状を引き起こす危険性があるため、今でも注意が必要な合併症です。

双子の妊娠・出産で知っておきたい支援制度

双子の妊娠・出産で活用できる支援制度には、高額医療費制度や多胎児家庭移動経費補助事業などがあります。

高額療養費制度

高額療養費制度は、1か月間(1日から末日)の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。上限額は年齢や所得によって設定されており、一定の条件を満たせば、さらに負担を抑えられる仕組みも用意されています。

事前に限度額適用認定証を取得すれば、窓口での支払いが上限額までとなり、一時的な出費も抑えられます。

出産育児一時金

出産育児一時金は、公的医療保険に加入している本人だけでなく、扶養家族が出産した場合にも受け取れる制度です。支給額は、子ども1人あたり原則50万円となっており、双子の場合は2人分の100万円を受け取れます。

ただし、産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合や、妊娠22週未満で出産した場合は、1人あたり48.8万円の支給となります。

多胎児家庭移動経費補助事業

多胎児家庭移動経費補助事業は、双子や三つ子を育てている保護者を対象に、タクシー移動の補助が支給される制度であり、自治体ごとに対象や支給内容が規定されています。

東京都豊島区を例に挙げると、対象が「3歳未満のふたご・みつごを育てている保護者」、支給内容は「タクシー移動に利用できる商品券が24,000円分」とされており、0歳児・1歳児・2歳児で1回ずつ申請することができます5)

不妊治療で双子を希望できる?

多胎妊娠は、母体への負担が大きく、早産のリスクも高まります。そのため、現在の不妊治療では、安全性を最優先に考え、1人の赤ちゃんを授かる単胎妊娠を目指す方針となっています。

排卵誘発法では、1つの卵胞を育てるよう調整し、成熟した卵胞(16mm以上)が4個以上になれば多胎妊娠を避けるため薬の投与を中止します。

生殖補助医療でも、2008年に日本産科婦人科学会が、受精卵1個のみを移植する単一胚移植を原則としました。母子の安全を守るため、多胎妊娠を減らす取り組みが進められています。

院長からのメッセージ

「2人くらい子どもがほしいので双子がいいです」——不妊治療をしているとそう言われることがあります。妊娠出産を2回繰り返すより、1回で2人授かることができれば楽なのでは、と思いたくなるお気持ちはよく分かります。

しかし医学的には、多胎妊娠は母子ともにハイリスクです。早産、低出生体重児、妊娠高血圧症候群などのリスクが高まります。そのため不妊治療においては、ねらって双子をつくるということは決してしません。これが、現在の生殖補助医療で原則として単一胚移植を行っている理由です。 

それでも、1つの受精卵が自然に分割する一卵性双胎が約1〜2%発生します。これは完全には予防できない自然現象ですが、適切な膜性診断と周産期管理により、多くの方が健康に出産されています。

双子を希望される気持ちも、双子になることへの不安も、どちらも自然な感情です。

過度な不安や期待を抱かず、医療者に率直にお話しください。一緒に最善の選択を考えていきましょう。

参考文献

1)日本産科婦人科学会. ARTデータブック(2019〜2023年). 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/medical/641/

2)政府統計の総合窓口(e-Stat). 単産-複産(複産の種類)別にみた都道府県別分娩件数(2019〜2023年). 政府統計の総合窓口(e-Stat)ウェブサイト.
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411625

3)日本産科婦人科学会. 生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解. 日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://fa.kyorin.co.jp/jsog/readPDF.php?file=77/8/077081014.pdf#page=14

4)小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会. 低出生体重児 保健指導マニュアル. 厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

5)豊島区. 多胎児家庭移動経費補助事業(ツインスマイル面接). 豊島区役所ウェブサイト.
https://www.city.toshima.lg.jp/220/2103181340.html

国立成育医療研究センター. 多胎妊娠について. 国立成育医療研究センターウェブサイト
https://www.ncchd.go.jp/hospital/pregnancy/senmon/tatai.html

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