「排卵日を予測して性行為をしてもなかなか妊娠しない」と悩んだことはありませんか。
本記事では、妊娠しやすい性行為のタイミング、タイミングを取っても妊娠しないときに考えられる要因、妊娠の可能性を高めるためにできることについて、医療的な視点から解説します。
排卵日と性行為の関係:妊娠しやすいタイミングはいつ?
妊娠は、排卵→受精→着床という過程を経て成立します。
女性の体では、月経周期に合わせて女性ホルモンが変化しています。月経が始まると徐々にエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が増え、受精卵を迎え入れる準備として子宮内膜が徐々に厚くなっていきます。
その後、エストロゲンが一定の閾値(ボーダーライン)を超えると、排卵のきっかけ(トリガー)となるLH(黄体形成ホルモン)が大量に放出されます。この現象はLHサージと呼ばれ、LHサージによって排卵が起こります。
排卵は一般的に、月経予定日の約14日前に起こるとされています。排卵日の2日前から排卵日当日に性行為をもつと、卵管内で卵子と精子が出会い受精し、受精卵が卵管から子宮へ移動して子宮内膜に着床することで妊娠が成立します。
妊娠確率が最も高いのは排卵2日前~排卵当日
妊娠の成立には、卵子と精子がタイミングよく出会うことが重要です。卵子と精子はそれぞれ受精が可能な時間が限られているため、受精が可能な期間を意識して性行為のタイミングを考える必要があります。
排卵によって卵巣から放出された卵子が受精能力をもつのは、排卵直後がピークで、最長でも12~24時間までといわれています1)。
一方、精子は女性の体内でおおよそ2~3日程度生存するといわれています1)。ただし、受精能力を保持している期間はこれより短く、通常2~3日程度と考えられています。
射精された精子は、腟から子宮頸管を通り、子宮を経て卵管へと移動し、卵管内で卵子が排卵されるタイミングを待ちます。
そのため、妊娠可能な時期は排卵日の5日前からであり、特に妊娠率しやすい期間は排卵2日前から排卵当日です2)。
適切な時期に性行為をしても妊娠しない理由
妊娠に適切な時期に性行為をしても妊娠しないことはよくあることです。この理由として、もともと1回の月経周期で妊娠する確率は決して高くないという事実があります。
以下は、ある研究で報告された年代別の月経1周期における妊娠確率(推定値)の例です3)。
上記の推定妊娠率が示す通り、何周期か適切な時期に性行為をしても妊娠しないということは、めずらしいことでもおかしいことでもありません。しかし、1周期での妊娠率が13%だとしても、1年(約12周期)後の妊娠率は75%、2年(約24周期)後の妊娠率は94%となります。
そのため、1年以上(35歳以上は半年)自分で妊活をしても妊娠しない場合は、その原因を調べることが勧められます。
以下で、性行為をしても妊娠しにくい背景として考えられる要因について解説します。
排卵日予測がズレている可能性
1つ目の要因に、実際の排卵日と予測した排卵日がずれていることがあげられます。
基礎体温やアプリでの排卵日予測は目安にすぎません。生理周期(生理から次の生理までの日数)が毎月ほぼ一定の方であれば比較的高い精度になりますが、生理周期が毎月バラつきがある方ではその予測はあてにならなくなります。
病院で調べてみると排卵予測日には排卵していなかったというケースは珍しくありません。また、過度なダイエットやストレスなどの影響でも、排卵の時期がずれることもあります。
卵管や子宮の状態が受精や着床を妨げる
排卵自体は問題なく起こっていても、卵管や子宮の環境が整っていないことが原因で受精や着床が妨げられることがあります。
卵管や子宮の環境が整っていない状態として、具体的に下記のような要因があげられます。
- 卵管が狭い、潰れている、塞がっている、水が溜まっている
- 子宮内膜が薄い
- 子宮内膜症がある
- 子宮筋腫や子宮腺筋症があるなど
一定期間避妊せずに性交をしても妊娠しない場合、こうした症状が隠れている可能性があります。なかなか妊娠しない場合は、一度、医療機関を受診して体の状態を確認してみるとよいでしょう。
受診までの期間としては、35歳未満であれば1年、35歳以上であれば6ヶ月、40歳以上であれば妊娠を希望されたらすぐというのが、日本産科婦人科学会で推奨されています。
精子の質の低下
妊娠のしにくさは、女性だけに原因があるわけではありません。精子の数が少ない、運動率が低いといった男性側の要因も、受精が成立しにくくなる理由のひとつです。
精子の質は、日常生活の影響を強く受けることがわかっています。
- 喫煙
- 強いストレス
- 長時間の膝上のパソコン作業
- サウナや長風呂などの長時間の高温環境
これらは精巣の温度を上昇させたり、精子をつくる働きに負担をかけたりすることで、精子の質を低下させる原因になります。
妊娠の確率を上げるためにできること
ここでは、妊娠の確率を上げるためにできることを紹介します。
性行為は妊娠しやすいタイミングを意識する
妊娠を成立させるために重要なのが、排卵日の予測です。排卵日は生理予定日から逆算したり(生理予定日の14日前)、基礎体温の計測によってある程度予測できます。排卵検査薬を使用することも非常に有効です。
妊娠可能な時期は排卵日の5日前からであり、特に妊娠率しやすい期間は排卵2日前から排卵当日です2)。予測した排卵日から逆算し、排卵日の2日前から排卵日にかけて、できれば複数日、性行為を行うことが理想です。
妊活は夫婦のペースで無理なくすすめる
排卵日を意識した性行為は、ときにストレスになったり、プレッシャーになったりすることがあります。
精神的なストレスやプレッシャーによって勃起不全(ED)や射精障害になることもあり、性交障害の原因となります。また過度のストレスは「テストステロン」などの性ホルモン分泌を低下させ、精子形成に悪影響を及ぼすことが知られています。
排卵日周辺だけで性行為をもつのではなく、特に排卵日を意識せずに定期的(週2~3回)に性行為をとることも精子濃度を向上させ、妊娠に好影響を与えることが知られています。
妊活を進めるときは、パートナーとよく話し合い無理のないペースを心がけましょう。
医療機関を受診し体の状態を確かめる
排卵日付近に性行為をおこなってもなかなか妊娠に結びつかない場合、なんらかの異常や疾患が隠れている可能性があります。女性だけではなく男性も一緒に医療機関を受診し、検査を受けることが推奨されます。
排卵日と性行為のよくある質問
排卵日と性行為の関係について、よくある質問と回答を紹介します。
Q. 排卵日後の性行為でも妊娠する可能性はある?
排卵日後に性行為をしても妊娠の可能性がゼロというわけではありません。ただし、排卵日の5日前から排卵日までの妊娠しやすいタイミングと比較すると、妊娠の確率は下がります。
Q. 排卵日に性行為をすると下腹部痛や出血が起こることがあるのはなぜ?
排卵日の前後には、排卵の刺激による下腹部痛や軽い出血が起こることがあります。性行為の際に痛みや出血が出る場合は、体に何らかの異常が起こっているサインの可能性があります。気になる症状が有る場合は、医療機関を受診し医師に相談しましょう。
Q. 毎日性行為をした方が妊娠しやすい?
妊娠率は1〜2日に1回の性行為を持つことで最も高くなるとされており2)、性交頻度が高いほど妊娠しやすいことも報告されています。また、連日の射精でも精子の質は下がらないことも知られています。
しかし、頻度を上げすぎるとお互いのストレスにつながる可能性もあります。無理に頻度を高めるよりも、妊娠のしやすい時期にタイミングを合わせることが大切になります。
Q. 排卵日前に見られる体の変化にはどんなものがある?
排卵日前に見られる体の変化として、透明でよく伸びるおりものが多く出るようになります。基礎体温は一時的に下がり、下腹部の張りを感じる人もいます。
院長からのメッセージ
「排卵日アプリで予測してタイミングを取っているのに、なかなか妊娠しません」
——初診のときによくお聞きする悩みです。頑張っているのに結果が出ないと、焦りや不安を感じてしまいますよね。
まず知っていただきたいのは、適切な時期に性行為をしても1周期あたりの妊娠率は決して高くないということです。20代後半でも約13%、30代前半で約10%。数周期うまくいかないことは、ごく普通のことなのです。
しかし同時に、自己流の排卵日予測には限界があることも事実です。基礎体温やアプリは目安にすぎず、私たちが診察すると「予測日には実はまだ排卵していなかった」というケースをよく経験します。生理周期が不規則な方では、特に予測の精度が下がります。
医療機関では、超音波検査やホルモン検査で排卵日をより正確に把握できます。また、卵管や子宮の状態も確認できるため、隠れた問題の早期発見にもつながります。35歳未満なら1年、35歳以上なら半年を目安に、ぜひ一度ご相談ください。
参考文献
1)一般社団法人日本生殖医学会.生殖医療Q&A.日本生殖医学会ウェブサイト
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa01.html
2)Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine.Optimizing natural fertility: a committee opinion.Fertil Steril. 2017;107(1):52-58.
https://www.fertstert.org/article/S0015-0282%2816%2962849-2/fulltext
3)Konishi S, Kariya F, Hamasaki K, Takayasu L, Ohtsuki H. Fecundability and Sterility by Age: Estimates Using Time to Pregnancy Data of Japanese Couples Trying to Conceive Their First Child With and Without Fertility Treatment. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(10):5486.
https://www.mdpi.com/1660-4601/18/10/5486

