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最終更新日:
2025-12-25

妊娠がうまくいかない原因には、約半数のケースで男性の要因も関わっています。男性不妊の原因には、精子をつくる機能の問題や射精の不調などの体の機能的な問題だけではなく、喫煙や肥満といった生活習慣も影響します。

この記事では男性不妊の原因や検査方法、治療法について詳しく解説します。

不妊症のうち男性に原因がある割合

不妊症とは、妊娠を希望する健康な男女が、避妊をせずに性交していても1年間妊娠に至らない状態を指します1)

WHO(世界保健機関)の報告によると不妊の約50%に男性側の要因が関わっており、妊娠に結びつかない原因が女性だけの問題ではないとわかります。

そのため、不妊が疑われる場合は、男女ともに検査を受けて原因を確認することが大切です。

男性不妊の主な原因

男性不妊の主な原因には、造精機能障害(精子をつくる力が十分ではない状態)や精路通過障害(精子の通りがよくない状態)などがあります。

造精機能障害

精巣で精子をつくる力が弱まり、精子の数や動き、形などが基準値より下回ってしまう状態を造精機能障害といいます。

男性不妊の原因として最も頻度が高く、全体の82.4%を占めるとされています2)。精子の数や運動性が低下すると、卵子に到達できる精子が少なくなり、妊娠に結びつきにくくなります。

造精機能障害の原因として、精索静脈瘤が最も頻度が高く、約30%に認められます2)。ほかにも、生まれつきの染色体の異常や精巣が陰嚢に降りていない停留睾丸、精巣の炎症などがあります。

精索静脈瘤とは

精索とは精巣から上方向にのびる管で、その中には精管やリンパ管、神経、そして精巣に流れる血管である動脈と静脈が入っています。精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈に逆流が起こり、精索内の静脈がこぶ状に拡張する状態です。精巣の左側に発生するケースが多くみられます。

主な症状は、鼠径部(足の付け根)の痛みや陰嚢の不快感などですが、無症状であることも少なくありません。無症状であっても精液所見に影響することがあり、精液検査後の精密検査の段階で発見されることもしばしばです。

症状が進行すると、ぶどうの房状のふくらみとして確認できる場合があります。

性機能障害

勃起障害(勃起できない・維持できない)や、射精障害(射精できない)により、性交がうまく行えない状態を性機能障害といいます。男性不妊の原因の13.5%を占めています2)

勃起障害の原因には、血管の機能低下や神経の障害、心理的な負担などがあります。なかでも心因性であることも多く、排卵日に合わせた性交へのプレッシャーや妊活のストレスなどが勃起障害につながるケースもあります。

射精障害の原因として、特に腟内射精障害の場合は勃起障害と同様に心因性であることが少なくありません。一方で、マスターベーションでも射精ができない射精不能や逆行性射精などは、糖尿病や脊髄損傷、骨盤内の手術など、体の病気や手術の影響で発生する場合も少なくありません。

精路通過障害

精路とは、精巣でつくられた精子を体外へ運ぶための経路全体のことです。 精子は、精巣でつくられた後、細いパイプ状の精管を通って運ばれます。

精路通過障害があると、精巣では精子がつくられているのに精液に含まれず、体の外へ出せない状態になってしまいます。男性不妊の原因の3.9%に認められます2)。射精自体はできていても、精液に精子が含まれていない無精子症と診断されることが多く、結果として妊娠が難しくなります。

原因としては、クラミジアや淋菌などの性感染症による炎症が精路の閉塞を引き起こす場合や、子どもの頃に受けた鼠径ヘルニア(脱腸)手術の影響で精管が損傷・閉塞したり血流障害を起こす場合、先天的な異常が影響する場合などがあるとされています。

無精子症とは

射出された精液の中に精子が全く存在しない状態を無精子症といいます。無精子症は「閉塞性無精子症」と「非閉塞性無精子症」の2種類にわけられます。

閉塞性無精子症では、精巣で精子がつくられているものの、精子の通り道が塞がっているため射精液に精子が含まれません。精路通過障害がある場合の無精子症は、閉塞性無精子症となります。

一方、精子の通り道に異常がないにもかかわらず、精巣の働きが著しく低下して、精子そのものがほとんどつくられない状態を非閉塞性無精子症といいます。造精機能障害がある場合の無精子症は非閉塞性無精子症となります。

加齢

加齢は精子の量や運動率を低下させ、男性不妊のリスクを高めます。

海外の研究では精子の運動率が5年ごとに約1.2%ずつ低下するという報告があり3)、加齢が妊娠のしやすさに影響を与えると考えられています。

ただし、この低下は個人差が非常に大きく、高齢であっても精液所見が良好な男性も少なくありません。

男性不妊の原因になる生活習慣

男性不妊の原因になる生活習慣には、精巣の温めすぎや喫煙、肥満などがあります。

精巣の温めすぎ

精巣にとっての最適な環境は、体温より2〜3℃低い温度です。精巣を温めすぎてしまうと、精子をつくる機能に悪影響を及ぼすおそれがあります。

以下の行動は精巣を温めることにもつながりやすいので注意してください。

  • サウナや熱いお風呂に長時間入らない
  • 稼働中のノートパソコンを膝上に置かない
  • スマートフォンをズボンの前ポケットに入れっぱなしにしない
  • 熱がこもりにくい服装を選ぶ(通気性の良いトランクス、ゆとりのあるズボンなど)

喫煙・飲酒

喫煙や過度の飲酒は、精子の量と質に悪影響を与えます。具体的には、精子の濃度や動きが低下することがあり、その結果、精子が卵子に到達しにくくなり、妊娠の可能性が低くなります。さらに、喫煙は男性ホルモンの分泌低下や血流の悪化を引き起こし、勃起障害の一因になる場合があります。

妊娠を目指す場合は禁煙や飲酒を控えるなど、精子に負担をかけない環境づくりを意識しましょう。

肥満

肥満の方と適正体重を維持している方では、精子の質に与える影響が異なります。肥満の男性では、精子の運動性の低下、奇形率の割合が高くなります。

肥満の予防・改善には、食べる量と動く量のバランス調整が不可欠です。食べ過ぎに注意しながら定期的な運動を心がけましょう。

ストレス・長時間の圧迫

過度のストレスや陰部を長く圧迫する状況も、男性不妊の原因のひとつになります。

精神的な負担が大きい状況では、男性ホルモンであるテストステロンの分泌が減り、精子をつくる力の低下につながります。十分な睡眠や適度な運動、気分転換する時間を確保して、できるだけストレスをため込まないようにしましょう。

また、自転車やバイクを長時間運転すると、勃起に関わる神経や血管が圧迫され、勃起障害のリスクを高めるおそれがあります。こまめな休憩をとったり、クッション性のあるパッドを活用したりして、陰部の圧迫を減らす対策をとりましょう。

う。

AGA(男性脱毛症)の治療

AGA(男性型脱毛症)の治療に用いられる主要な内服薬、フィナステリド(プロペシア®︎など)およびデュタステリド(ザガーロ®︎など)は、一部の男性において精液の質に影響を与える可能性があります。

これらの薬剤は「5α還元酵素阻害薬」と呼ばれ、ホルモンバランスを変化させることで脱毛症の治療をするものです。このホルモンバランスの変化が、精子の産生や精液の組成に関連する精巣や精巣上体、前立腺などに影響を及ぼす可能性があると考えられています。

ただし、その影響は極めて少ないため、もともと精液所見が正常な男性では問題になることはありません。しかし、精液所見が不良な男性がこのような薬を使うと、さらに所見が悪化してしまうおそれがあります。

なお、影響があったとしても、服用を中止すれば回復するものであり、薬剤の服用を中止してから約3ヶ月程度(精子が作られ始めてから射出されるまでのサイクルに相当)で、精液所見は元のレベルまで回復すると報告されています。

不妊治療をするにあたっては、AGA治療のメリットと妊活へのわずかな影響を考慮して、AGAと不妊の両方の専門医に相談することが重要です。

男性不妊の原因を調べる方法

男性不妊の原因を調べる方法には、精液検査やホルモン検査、陰嚢超音波検査などがあります。

精液検査

精液検査は、男性不妊の原因を調べるうえで最も重要な検査です。精液検査では、採取した精液を分析し、精子の数や動き、形態などを詳しく調べます。

精子の状態は体調やストレスなどの影響を受けやすく、検査ごとに数値が変動しやすい特徴があります。そのため、1回の検査だけで判断せず、必要に応じて複数回の検査が実施される場合もあります。実際、1回目の検査結果が思わしくなくても、日を改めて再検査を行うと基準値内に戻っているケースもあります。

検査結果は、WHO(世界保健機関)が定める基準値をもとに判定されます。精液量1.4mL以上、精子濃度1,600万/mL以上、運動している精子の割合42%以上、正常な形をした精子4%以上が基準値とされています(WHOラボマニュアル第6版)4)

この基準値は自然妊娠できた人の下位5%にあたる数値で、「妊娠できる可能性のある最低限のライン」という意味合いです。あくまで目安であり、この基準値以下で自然妊娠する方もいれば、基準値を超えていても妊娠が難しい方もいます。

ホルモン検査

ホルモン検査(血液検査)では、FSHやLH、テストステロンなどの値を測定して男性不妊の原因を調べます。

FSHやLH、テストステロンの数値が基準値よりも低い場合、FSHやLHは脳下垂体から分泌されるため低ゴナドトロピン性性腺機能低下症という病気が疑われます。(ゴナドトロピンというのは精巣を刺激するホルモンの総称で、FSHやLHを指します。)

一方、FSHやLHの数値が高い場合は、精巣そのものの機能障害が疑われます。

染色体・遺伝子検査

染色体・遺伝子検査(血液検査)は、精液検査で無精子症や高度乏精子症(精子の数が極端に少ない状態)が確認された場合に行われる検査です。染色体の構造や遺伝子に異常がないかを調べます。

染色体や遺伝子に特定の異常があると、精子をつくる機能が著しく低下する場合があります。

代表的なものとして、クラインフェルター症候群(男性の性染色体にX染色体がひとつ以上多いために生じる疾患)や、Y染色体長腕上にあるAZF(無精子症因子)と呼ばれる領域の欠損などがあります。

陰嚢超音波検査

陰嚢超音波検査は、体を傷つけることなく、精巣の大きさや内部の状態を画像で確認できる検査です。

超音波を使って陰嚢内を詳しく観察できるため、視診(目で見る)や触診(手で触れる)だけでは見つけにくい異常の発見に役立ちます。特に精索静脈瘤の診断に有効です。

男性不妊の原因別の治療法

男性不妊の治療は、原因が特定できるかどうかによって方針が変わります。

不妊の原因がはっきりしている場合は、手術や薬による治療が検討されます。一方、検査をしても明確な原因が見つからない場合は、人工授精や体外受精といった不妊治療が選択肢となります。

乏精子症・精子無力症

精液検査で乏精子症や、精子無力症(精子の運動率が低い状態)といった異常が発見された場合は、原因を詳しく調べたうえで治療を行います。

検査の結果、精索静脈瘤が見つかった場合は、手術による治療が有効です。手術により精子の数や運動率などが向上する可能性があり、自然妊娠に至るケースも報告されています。

原因が特定できない場合には、精子の状態に合わせて、人工授精や体外受精などの不妊治療が行われます。

無精子症

無精子症には、主に以下の2つがあります。

  • 閉塞性無精子症
  • 非閉塞性無精子症

閉塞性無精子症の場合、精子の通り道である精路の再建手術や、精巣組織の一部を採取して精子を探す精巣精子採取術(simple-TESE)、精巣を切開せずに精巣上体から精子採取を試みる顕微鏡下精巣上体精子採取術(MESA)などが検討されます。

非閉塞性無精子症では、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro TESE)という方法で精巣内をくまなく調べ、精子がつくられている部分がないかを探します。精子を見つけられれば、その精子を使用した顕微授精が可能となります。

勃起障害・射精障害

勃起障害の場合は、ED治療薬(内服薬)の使用を検討します。薬の効果により勃起機能が回復すれば、自然妊娠を目指すことが可能です。

一方、腟内で射精できない射精障害は、糖尿病や脊髄損傷、骨盤内の手術などが原因で起こります。これらに起因する射精障害についても、多くの場合は薬や手術による治療が可能です。

男性不妊の原因に関するよくある質問

ここでは、男性不妊の原因に関するよくある質問について解説します。

Q:男性不妊は見た目でわかる?

男性不妊は基本的に外見だけで判断することは難しいですが、一部の原因は体の変化として現れる場合があります。

たとえば、男性不妊の原因のひとつである精索静脈瘤は、泌尿器科医による視診や触診で発見できる可能性が高い疾患です。症状が進行すると、ぶどうの房状のふくらみとして確認できる場合があります。

しかし、外見上は全く問題がなくても、精子の数や運動率の異常などが原因で不妊症になっているケースもあります。

ひとつの目安として、避妊なしで1年間性交をしても妊娠に至らない場合は、医療機関での検査を検討しましょう。早期発見により、適切な治療や対策につながります。

Q:男性不妊になりやすい人の特徴は?

男性不妊にはさまざまな原因がありますが、以下の疾患や生活習慣がある人は注意が必要です。

  • 精索静脈瘤がある人:精巣で精子をつくる力が弱まる原因になる
  • 糖尿病がある人:射精障害の原因になる
  • 過去に手術や性感染症の経験がある人:精子の通り道に障害を起こす原因になる
  • 肥満や喫煙、自転車に長時間乗る人など:精子の質の低下や勃起障害の要因になる

気になることがある場合は、医療機関での検査を検討しましょう。

Q:男性の不妊検査はどこでできる?

男性不妊の検査は、不妊症に対応する泌尿器科やクリニックで受けられます。男性不妊の検査の中で基本となる検査は精液検査で、精子の数や運動率、形態などを調べます。

検査の結果、精子の状態に問題がみつかった場合は、原因を特定するために男性不妊の専門医によって、ホルモン検査や視診・触診、超音波検査、そして染色体・遺伝子検査などの追加の検査を行います。

男性の不妊検査に関連するブライダルチェックについて、以下の記事でも詳しく紹介しています。

Q:男性の不妊検査の費用を補助してくれる助成制度はある?

自治体によっては、男性不妊検査の費用についての助成を受けられる場合があります。

東京都では、保険医療機関で実施した不妊検査および不妊治療にかかる費用について、5万円を上限に助成金を受け取れます。助成の対象となる検査には、精液検査や内分泌検査、染色体・遺伝子検査などが含まれます。

ただし、助成を受けるには一定の要件を満たす必要があります。また、助成回数や申請期限、対象となる医療機関などについても、条件が設けられているため注意が必要です。

助成制度の内容や条件は自治体によって異なるため、お住まいの地域の自治体ホームページや窓口で確認しましょう。

院長からのメッセージ

男性不妊の検査に抵抗を感じる方は少なくありません。でも、私たちは検査を「診断」ではなく「スタートライン」だと考えています。精子の状態は、体調やストレス、生活習慣の影響を受けやすいものです。

精子が作られるサイクルは約2〜3か月かかりますので、生活習慣を見直したり治療を行ったりすることで、数か月後には改善が見られることも珍しくありません。お二人で一緒に、現状を知ることから始めましょう。その結果をもとに、最適な方法を一緒に考えていきます。

参考文献

1)日本産科婦人科学会.不妊症.日本産科婦人科学会ウェブサイト
https://www.jsog.or.jp/citizen/5718/

2)日本泌尿器学会.2024年版.男性不妊症ガイドライン
https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/52_male_infertility.pdf

3)Beguería R, García D, Obradors A, Poisot F, Vassena R, Vernaeve V. Paternal age and assisted reproductive outcomes in ICSI donor oocytes: is there an effect of older fathers? Hum Reprod. 2014;29(10):2114-2122.
https://academic.oup.com/humrep/article/29/10/2114/647570

4)World Health Organization. WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen. 6th ed. World Health Organization; 2021.
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/343208/9789240030787-eng.pdf

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