2024年6月から、AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査が、タイミング法や人工授精を行う一般不妊治療の段階でも、一定の条件を満たせば保険適用でAMH検査を受けられるようになりました。
現在は、不妊症と診断された方に対し、卵巣機能の評価および治療方針の決定を目的としてAMH検査を行う場合、6ヶ月に1回を上限として保険適用が認められています。
この記事では、AMH検査の概要、一般不妊治療における保険適用の条件、費用の目安、検査を受ける際の注意点について整理して解説します。
AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査とは?
AMH検査は、卵巣内で発育を開始した卵胞から分泌されるホルモンを測定することで、卵巣にどれくらい卵子の元が残っているかを推測する検査です。あくまで「今どれくらい卵子の元が残っているか」を示す指標であり、卵子の質や妊娠の成立しやすさを直接評価するものではありません。
AMHの数値が低い場合は、卵巣内で成長を始める卵胞の数が少なくなっていることをあらわします。AMHが低い状態は、卵巣予備能の低下を示唆しており、将来的に閉経が早まる可能性があります。ただし、AMH値が低くても規則的な月経があり、排卵が正常に起こっている方も多くいます。
また、体外受精などの治療に進んだ際、1回の採卵で得られる卵子の数が少なくなる可能性もあります。このため、AMH値が低い場合には、妊娠を希望する時期や不妊治療を始めるタイミングについて、早めに検討する判断材料として活用されます。
一方、AMH値が高い場合には、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)またはその傾向が関わっている可能性があります。PCOSでは排卵が起こりにくくなることがありますが、適切な排卵誘発治療を行うことで、妊娠を目指すことは十分に可能です。
また、排卵誘発剤への反応が過剰になりやすい特徴があります。そのため、排卵誘発剤を用いたタイミング法や人工授精では多胎のリスクが高まり、体外受精においては卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高まるため、慎重な薬剤調整が必要です。
AMH値の目安と年齢との関係
AMH値は年齢とともに変化し、一般的には20代半ばごろを境に徐々に低下していきます。AMH測定受託検査センターの測定値の資料によると、年齢別のAMHの中央値は以下のとおりです。
このように、年齢を重ねるごとに値が低下する傾向が見られます。
生まれつきの卵子の数には個人差があるため、AMHには「正常値」は設定されていません。数値が高い・低いかを単独で判断するのではなく、同年代の中央値と比べてどの位置にあるかを目安にします。
AMHの値をもって「卵巣年齢」と称することがありますが、これは適切な表現ではありません。不妊治療において年齢が最も影響するのは卵子の質であり、AMHは卵子の質を反映しないからです。
たとえば、25歳の方のAMHが40歳相当の数値だったとしても、その方の卵子の質は25歳相当であり、妊娠のしやすさが40歳相当になるわけではありません。AMHが示すのはあくまで「卵子の数の目安」であることを理解しておきましょう。
一般不妊治療におけるAMH検査の保険適用の条件と対象者は?
AMH検査は、従来は体外受精など生殖補助医療を行う際の排卵誘発剤の投与量を決める目的に限って、保険が適用されていました。しかし、2024年6月からは一般不妊治療の段階で治療方針を考える目的でも保険適用が可能となり、より多くの方が必要なタイミングでAMH検査を受けられるようになりました。
現在、保険適用となるのは、医師により不妊症と診断された方に対し、卵巣機能の評価や治療方針の決定を目的としてAMH検査を行う場合です。
なお、保険適用内でAMH検査を行えるのは6ヶ月に1回までです。
保険適用外となるケース
一方で、次のような目的でAMH検査を受ける場合は、保険適用の対象にはなりません。
- ブライダルチェックとして卵巣予備能を把握したい場合
- 将来に備えた卵子凍結を目的としてAMHを測定する場合
- 多嚢胞性卵巣症候群や早発卵巣不全の診断のみを目的とする場合
また、保険適用でAMH検査を受けた後、6ヶ月未満の間隔で再検査を希望する場合も、自費診療となります。
AMH検査の費用相場
AMH検査の費用は、保険診療か自費診療かによって大きく異なります。また、AMH検査は単独で行われることもありますが、他のホルモン検査や超音波検査などとあわせて実施されるケースも多く、医療機関や検査内容の組み合わせによって支払額には幅があります。
保険適用時の自己負担額
AMH検査が保険適用となる場合、自己負担は原則として3割負担です。ただし、実際の会計金額はAMH検査単体の費用だけで決まるわけではなく、次のような項目が加わることで変動します。
- 初診料や再診料
- 採血料や、必要に応じて行われる超音波検査などの追加検査
- 一般不妊治療管理料など、治療全体に関わる費用
そのため、実際の支払い額はAMH検査のみを想定した金額より高くなることがあります。具体的な費用については、受診を予定している医療機関で事前に確認してください。
自費診療の場合の費用相場
自費でAMH検査を受ける場合、医療機関ごとに費用設定が異なります。AMH検査単体で料金が設定されている場合もあれば、次のような検査をまとめたパッケージとして提供されることもあります。
- ホルモン検査
- 超音波検査
- 感染症検査 など
検査内容や組み合わせによって費用に差が出やすいため、正確な金額を知りたい場合は、受診前に医療機関へ問い合わせるとよいでしょう。
AMH検査に関するよくある質問
Q:AMH検査を受けた方が良いタイミングは?
AMH検査を検討するタイミングとして、次のような場面があります。
- 不妊治療を始める前に、卵巣予備能を知りたいとき
- 35歳以上で妊娠を希望しているとき
- 月経不順や無月経があり、排卵の状況が気になるとき
- 手術歴があり、今後の妊娠の見通しを把握したいとき
AMH検査は月経周期による変動が比較的少ないため、周期のどの時期でも測定しやすい検査です。ただし、経口避妊薬(ピル)を服用している場合や、妊娠中・授乳中は、AMH値が実際より低く測定される可能性があるため、測定のタイミングについては医師に相談しましょう。
他のホルモン検査や超音波検査とあわせて評価することも多いため、検査のタイミングについては医師の判断に従いましょう。
Q:AMH検査キットで卵巣予備能がわかりますか?
自宅で採血し、郵送して測定するタイプのAMH検査キットがありますが、これらはあくまで簡易的に数値を知るためのものです。医療機関以外のサービスでは診断行為ができないため、検査キットの結果のみで医学的な判断を行うことはできません。
AMH値は、年齢や月経の状態、他のホルモン検査や超音波検査などとあわせて総合的に評価する必要があります。
気になる結果が出た場合は、検査キットの数値だけで判断せず、医療機関を受診して相談することが大切です。
Q:AMH値が低いと妊娠できないのでしょうか?
AMH値が低いからといって、妊娠できないわけではありません。
AMHは卵子の数の目安を示す指標であり、卵子の質や妊娠の成立そのものを直接示すものではありません。質の良い卵子が排卵されれば、AMH値が低い場合でも妊娠は十分に目指せます。
ただし、AMH値が低い場合は、採卵できる卵子の数が限られるため、体外受精などの治療を行う際には複数回の採卵が必要になる可能性があります。また、卵巣予備能が低い場合は、妊娠を目指せる期間が限られる可能性があるため、治療の進め方やタイミングについて早めに医師と相談することが大切です。
院長からのメッセージ
「AMH検査で卵巣年齢が分かります」——こんな説明を目にしたことはありませんか?実はこの「卵巣年齢」という言葉は、とても分かりやすい反面、不妊治療の実態を正しく反映したものではないんです。
AMHが教えてくれるのは、あくまで「卵巣に残っている卵子の数の目安」だけ。卵子の質や妊娠のしやすさとは別の話なんです。不妊治療で妊娠率を最も左右するのは卵子の質であり、これは実年齢と強く関連しています。
たとえば25歳の方のAMHが40歳相当の数値でも、卵子の質は25歳相当であり、妊娠率が40歳相当になるわけでは決してありません。
AMHが低くても若い方なら質の良い卵子が期待できますし、自然妊娠も十分に可能です。逆に、AMHが高くても年齢が高ければ、妊娠率は年齢相応となります。
ただしAMHが妊娠と全く関係ないかというとそうではありません。体外受精においてはAMHが低いと取れる卵子の個数が少なくなるため、最終的な妊娠率に影響を与えます。
AMH検査は治療方針を考える上でとても有用な検査ですが、一般に思われているほど単純に解釈できるものではなく、数値だけで妊娠の可能性を判断することは困難です。結果について不安がある場合は、年齢や月経の状態なども含めて総合的に評価しますので、どうぞ遠慮なくご相談ください。
参考文献
AMH測定受託検査センター.「アクセスAMH(IVD)」測定値の年齢別分布(中央値)
日本産婦人科医会/ 3)卵巣予備能とは?
厚生労働省 不妊治療に関する支援について

