「自分の年齢で自然妊娠できる確率はどのくらい?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。年を重ねるにつれ自然妊娠の確率は下がり、とくに30代後半から妊娠率の低下は顕著になることがわかっています。
この記事では、推定される自然妊娠の確率や加齢とともに妊娠しにくくなる理由、妊娠に向けた対策について解説します。
年齢別に見る自然妊娠の確率
加齢にともない自然妊娠に至る確率は下がり、とくに35歳を超えると大きく低下します。日本のカップルを対象とした観察研究では、1周期あたりに妊娠する確率が年齢ごとに推定されています。
<日本人のカップルを対象とした観察研究1)>
研究結果を見ると、年齢が上がるにつれて妊娠率が低下していることがわかります。20代でも妊娠率は10%台であり、30代後半では1桁台、40代では約1%とごくわずかな確率となります。
この研究では、対象者が妊娠するまでの平均期間も示されており、20代で約6.5〜7.0か月、30代で約9.5〜9.8か月という結果でした。年齢が上がると、妊娠に至るまでの期間も長くなることがわかります。ただし個人差も大きく、妊娠までに1年以上かかるケースも少なくありません。
1年間妊活を続けた場合の妊娠率
1年間妊活を続けた場合も、妊娠率は年齢が上がるほど低くなります。
20歳〜44歳の日本人女性を対象とした調査では、避妊せずに1年間妊娠を試みた場合の成功率が示されています2)。
※対象者の22%は不妊に関する相談・治療経験あり
20代半ばでは約8割が妊娠に至る一方で、30代では約50%、40代前半では約30%に低下しています。
年齢とともに自然妊娠が難しくなる理由
加齢とともに、妊娠を妨げるような体の変化が起こりやすくなります。女性では、妊娠に影響する主な要因には以下があげられます。
- 卵子の質が低下する
- 卵子の数が減少する
- 婦人科系の病気を発症しやすくなる
卵子の質が低下する
加齢にともない卵子の質の低下は避けられません。卵子の質が低くなると、受精や着床がうまく進まなくなったり、流産のリスクが高まったりします。
卵子の質が低下する最も大きな原因は、染色体異常の増加です。女性は生まれる前から卵子のもととなる細胞を持っており、年齢とともにこれらの細胞も老化していきます。加齢により、卵子の細胞分裂の過程で染色体が正しく分配されにくくなり、染色体の数に異常がある卵子が増えます。このような卵子は受精しても正常に発育できず、着床しなかったり流産したりする原因となります。
また、卵子内でエネルギーを作り出すミトコンドリアという器官の機能も低下します。これにより、卵子の成熟や受精に必要なエネルギーが不足し、妊娠しにくくなります。
残念ながら、現在の医学では卵子の質の低下を完全に防いだり、元に戻したりする方法は確立されていません。年齢にともなう自然な変化であり、サプリメントや特定の食品で卵子の質そのものを大きく改善することは難しいのが現状です。
将来の妊娠に備えて若い時期に卵子を凍結保存する選択肢もありますが、費用や成功率、高齢妊娠のリスクなどを十分に理解した上で検討する必要があります。
卵子の数が減少する
卵巣に残る卵子の数は年齢とともに減少します。胎児期(在胎20週頃)に約600〜700万個でピークを迎えた原始卵胞は、出生時には約100〜200万個となり、初経時には約30万個、閉経時には約1,000個程度にまで減少するといわれています。
卵巣に残る卵子の数(卵巣予備能)が少なくなると、将来的に閉経を迎えるまでの期間が短くなります。また、卵巣予備能が著しく低下すると、排卵の頻度が減ることもあり、妊娠の機会が限られます。
婦人科系の病気を発症しやすくなる
婦人科系の病気も妊娠を妨げる原因となります。以下に、主な婦人科系の病気と妊娠への影響をまとめました。
また、年齢を重ねると、子宮頸がんや子宮体がん、卵巣がん、乳がんなどのリスクも高くなります。これらの治療で使われる抗がん剤や放射線は、卵巣の機能を低下させる可能性があります。
自然妊娠の確率とあわせて知っておきたい年齢と流産の関係
加齢とともに流産の可能性も高まります。
流産の主な原因は、受精卵の染色体異常です。染色体異常は若い人でも起こりうる現象ですが、その頻度は加齢とともに上昇することも判明しています。
海外で行われた研究結果では、年齢とともに流産率が高まることが示されています。
<全妊娠件数に対する流産の割合(ノルウェー、2009年~2013年)3)>
流産に至った人の割合は、40代から大幅に増えていることがわかります。
なお、喫煙やカフェインの過剰摂取、ストレスなども流産に影響する要因です。妊娠を望む場合は、年齢だけでなく、毎日の習慣や今の健康状態にも目を向けていく必要があります。
30代・40代で自然妊娠の確率を高めるためにできること
年齢による影響を完全に避けることはできませんが、妊娠しやすい体づくりを心がけることは可能です。
また、卵巣の健康を維持するために、以下のことが推奨されています。
- 禁煙(喫煙は卵巣機能と卵子の質に悪影響)
- 適正体重の維持
- バランスの良い食事
- 適度な運動
- ストレス管理
妊娠の可能性を高めるために、毎日の生活を見直し、体のコンディションを整えていきましょう。
バランスの良い食事を心がける
妊娠に向けて体調を整えるためには、1日3食「主食・主菜・副菜」をそろえた食事を意識しましょう。
「これを食べれば妊娠しやすくなる」という特定の食品はありません。さまざまな食材をバランスよく取り入れることが大切です。
妊娠前から意識したい栄養素として、葉酸や鉄などがあります。葉酸は、赤ちゃんの脳や脊髄の発達に関わる大切な栄養素であり、神経管閉鎖障害などの先天異常の予防に重要です。厚生労働省は、妊娠の1か月以上前から妊娠初期にかけて、食事に加えてサプリメントなどで1日400μgの葉酸摂取を推奨しています。鉄には酸素を全身に届ける働きがあります。
葉酸を多く含む食品にはブロッコリーやほうれん草、イチゴなどが、鉄を多く含む食品にはひじきや赤身肉、小松菜、納豆などがあります。
葉酸について詳しくは以下の記事をご覧ください。
適度に運動する
毎日の習慣に適度な運動を取り入れることで、筋力が向上し血の巡りが良くなり、健康的な体づくりにつながります。
激しい運動をする必要はありません。ウォーキングやヨガ、ストレッチなど、無理なく続けられる運動が良いでしょう。適度な運動は、ストレス軽減や質のよい睡眠にもつながります。
喫煙・飲酒など生活習慣を見直す
喫煙は、卵巣の機能や卵子の質、精子の質を低下させるなど、妊娠を妨げる大きな原因となります。受動喫煙も影響するため、パートナーと一緒に禁煙に取り組みましょう。
飲酒もできるだけ控えることが推奨されています。過度の飲酒はホルモンの働きを乱し、妊娠に悪影響をおよぼすことがあります。
また、妊娠中の飲酒では、胎児の発育に影響が出る胎児アルコール症候群を引き起こす可能性があります。過度な飲酒は、妊活をはじめる段階で控えると安心です。
排卵のタイミングを把握する
妊娠の可能性を高めるために、排卵日のタイミングに合わせて性交渉を持つように意識してみましょう。排卵日の1〜2日前から排卵日にかけて最も妊娠しやすい時期とされています。
排卵のタイミングを自宅で予測する方法として、以下の2つがあります。
- 基礎体温の測定
- 排卵日予測検査薬の活用
基礎体温は、起床後すぐの体温を毎日記録する方法です。この変化を記録することで、月経周期のリズムや排卵のタイミング、妊娠に適した時期を把握できます。ただし、基礎体温は排卵後に上昇するため、その周期の排卵日をリアルタイムで予測することには適していません。数周期の記録を取ることで、ご自身の生理周期のパターンを把握することが主な目的となります。
排卵日予測検査薬は、排卵前に分泌が高まる黄体形成ホルモン(LH)濃度を測定することで、排卵日を予測するものです。検査薬で陽性反応が出た日とその翌日に性交渉を持つことで、妊娠の可能性が高まります。
基礎体温と排卵日予測検査薬を組み合わせることで、排卵のタイミングをよりつかみやすくなります。
排卵日と妊娠しやすい性交渉のタイミングについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
自然妊娠しない場合はどうする?
妊活を続けても妊娠に至らないときは、医療機関への相談を検討しましょう。
妊娠しない原因には、何らかの病気が関係している可能性もあります。受診の目安は、以下のとおりです。
- 35歳未満の人:1年間妊活しても妊娠しない場合
- 35歳以上の人:6か月間妊活しても妊娠しない場合
- 40歳以上の人:妊娠したいと思ったらすぐ
上記はあくまでも目安であり、年齢が高い人や何らかの症状がある場合は、より早めの受診が推奨されます。
ブライダルチェック・不妊検査を受ける
不妊症に対応するクリニックでは、感染症の有無や子宮・卵巣の状態の確認など、不妊の原因となる異常がないかを調べる検査が可能です。
検査結果をもとに、治療の必要性や妊娠に向けた準備について、医師からアドバイスを受けられます。また、万が一病気が見つかった場合は、適切な治療にもつながります。
必要な検査項目は一人ひとりの状態によって異なるため、医師と相談し自分に必要な検査を受けましょう。
検査はパートナーである男性も一緒に
不妊の原因の半数は男性側にあるといわれており、とくに35歳を過ぎると精子の質が低下し妊娠率に影響するとされています。男性側の異常は自覚症状が少なく発見が遅れるケースもあるため、妊娠を望む場合は体の状態を調べておくことが大切です。
男性の主な検査項目は以下のとおりです。
- 精液検査(精子の量や動き、形などの評価を行う)
- 血液検査(ホルモン検査、感染症検査など)
カップルで検査を受けることで、お互いの体の状態がわかり妊娠に向けて一緒に準備を進めやすくなるでしょう。
男性のブライダルチェックや保険適用について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
自然妊娠が難しい場合の不妊治療という選択肢
検査の結果を踏まえ、自然妊娠が難しいと考えられる場合は不妊治療が選択肢となります。不妊治療には、主に以下の種類があります。
不妊治療を視野に入れる場合でも、年齢の影響があることを理解し、できるだけ早めに専門医に相談することが大切です。
年齢と自然妊娠の関係についてよくある質問
ここでは、年齢と自然妊娠の関係に関するよくある質問について解説します。
Q:40代でも自然妊娠した人はいますか?
40歳以降では、卵巣機能の低下により自然妊娠の確率は大幅に低下します。本文の表で示したように、40歳以上では1周期あたりの妊娠率は約1%、12か月間の累積妊娠率でも40代前半で約30%程度となります。
妊娠できた場合でも、年齢が上がるほど流産の危険性が高まります。参考文献のデータによれば、40〜44歳では流産率は約33%、45歳以上では約57%に達します。
40代で妊娠を望む場合は、専門医へ相談し適切な検査や治療を受けることを検討しましょう。
Q:女性が1番妊娠しやすい年齢は何歳ですか?
一般的には、安全に妊娠・出産を迎えられる理想的な年齢は、20代前半から30代前半とされています。ただし、これらはあくまで統計に基づいたデータであり、20代や30代前半であっても、希望通りに妊娠できないケースもあります。
妊娠を考えはじめたら、生活習慣を見直したり、医療機関で体の状態をチェックしたりするなど、自身の健康状態と向き合うことが大切です。
Q:卵子凍結すれば年齢の影響を避けられますか?
若い時期に凍結した卵子を利用すると、妊娠率の向上が期待できますが、高齢での妊娠・出産になれば母体へのリスクは高まります。
また、卵子凍結をしても将来の妊娠・出産が確実に保証されるわけではありません。卵子1個あたりの着床率は17〜41%、出生率は4.5〜12%と報告されています5)。
さらに、卵子凍結には採卵や保管に高額な費用がかかり(採卵で数十万円、年間保管料で数万円程度)、経済的な負担も考慮する必要があります。
卵子凍結を考える場合は「凍結した卵子でいつ頃妊娠・出産するか」というライフプランまで含めて考えておく必要があるでしょう。
院長からのメッセージ
この記事のデータを見て、「やっぱり…」と思った方もいれば、「思ったより厳しい」と感じた方もいるかもしれません。しかし、データを知ることは決してネガティブなことではなく、現実を正しく理解することで適切なタイミングで行動を起こすチャンスにすることができます。
20代の方と40代の方では、同じ「妊活」でもアプローチは全く異なります。また、仕事との両立を考える方には、効率的に通院できる環境が必要です。大切なのは、ご自身の状況を正しく理解して、適切なタイミングで行動を起こすことです。
年齢という変えられない要素に対して、私たちができることは、限られた時間を最大限に活かすお手伝いをすることです。不安を抱え込まず、まずは相談にいらしてください。
参考文献
1)Konishi S, Kariya F, Hamasaki K, Takayasu L, Ohtsuki H. Fecundability and sterility by age: estimates using time to pregnancy data of Japanese couples trying to conceive their first child with and without fertility treatment. PLoS One. 2021;16(5):e0251075.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8161326/
2)Konishi S, Sakata S, Oba MS, O’Connor KA. Age and time to pregnancy for the first child among couples in Japan. Jpn J Public Health. 2007;54:410-415.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jps/54/0/54_1801001/_pdf
3)Wilcox AJ, Morken NH, Weinberg CR, Håberg SE, Magnus MC. Role of maternal age and pregnancy history in risk of miscarriage: prospective register based study. BMJ. 2019;364:l869.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6425455/
4)日本産科婦人科学会. ノンメディカルな卵子凍結をお考えの方へ. 日本産科婦人科学会ウェブサイト.
https://www.jsog.or.jp/medical/865/

